2016年09月23日(金)
- PSIM Cafe
ワイヤレス充放電システムのPSIM事例
株式会社プリンシパルテクノロジー 大羽 規夫 様からの投稿です。
- はじめに
ワイヤレスで双方向の充放電が可能な「ワイヤレス充放電システム」のPSIM事例を紹介します。
このワイヤレス充放電システムは、2015年のPSIMユーザ会で報告した「磁気モデルを活用したワイヤレス充放電システムの開発事例」と基本的に同じですが、この事例から制御性能をさらに改善したPSIMシミュレーションを紹介します。
なお、このワイヤレス充放電システムは次のような3つの特長を持っています。
- 1次側は一定電圧・一定周波数の電源であり、2次側の情報を1次側へ無線フィードバックする必要のないシンプルな制御回路構成
- 結合係数の変化を2次側からの無効電力(励磁電流)で補償し、コイルの位置がずれても安定した電力伝送を継続
- 2次側の制御だけで充電と放電(力行/回生)を実現 (パワーコンディショナなどで使われている一般的な制御方式を採用)
- 伝送電力に限界があるワイヤレス給電
下の図は、PSIMで作成したワイヤレス充放電システムの主回路モデルです。
送受電コイルは単相トランスを使ってモデル化しています。
この図のように、ワイヤレス充放電システムはインバータを使った一般的なパワエレ装置に見えますが、通常のパワエレ装置と違うのはトランス(送受電コイル)の結合係数が著しく低いことです。
このような結合係数が低いトランスは、漏れ磁束によってインダクタンスが大きくなるために、給電できる最大電力が制限されます。
まず、この最大電力がどのようになるかを、一般的なワイヤレス給電の受電回路であるダイオード整流の場合についてシミュレーションで確認します。
下の図のようなシミュレーション回路で、直流回路の抵抗値Rdを変化させて、消費電力と受電電圧の変化を確認します。
なお、今回紹介する事例のシミュレーション条件は以下です。
・送電コイルの自己インダクタンス:120 μH
・受電コイルの自己インダクタンス:120 μH
・コイルの結合係数:0.5および0.7
・1次側電源:±400Vの矩形波 20kHz
シミュレーションの結果をまとめると
・結合係数が0.5のときRd=11.5Ωで最大1456W
・結合係数が0.7の場合はRd=7.9Ωで最大4162W
となります。
このように結合係数が低下すると、伝送できる最大電力も低下します。
また、結合係数や抵抗値によって受電電圧も大きく変動することがわかります。
このように、ワイヤレス給電では、伝送できる最大電力や受電電圧が大きく変動することが、安定した電力伝送の実現を難しくしていると言えます。
- 有効電力と無効電力を制御する「ワイヤレス充放電システム」
ワイヤレス充放電システムの構成図と制御ブロック図を示します。
ワイヤレス充放電システムは、パワーコンディショナなどの系統連系インバータと同様に、有効電力と無効電力を制御(PQ制御)しています。
有効電力は充放電の制御であり、直流回路の電圧制御やバッテリのCC-CV充電などが有効電力の制御です。
無効電力は受電電圧の制御ですが、1次-2次間の結合磁界の励磁状態を制御して結合係数や負荷の変動を補償していると理解できます。
- 直流電圧制御のPSIMシミュレーション
直流電圧制御のPSIMシミュレーション回路とシミュレーション結果を示します。
制御指令値が、直流電圧400V一定および受電電圧250V一定であり、
直流回路の抵抗値が、制御開始時は100Ωで0.15sec後に50Ωへ変化するシミュレーションです。
結合係数が0.5および0.7の両方の条件で、直流電圧・受電電圧とも指令値の通りに良好に制御できています。
結合係数に差があっても(コイル位置がずれても)、負荷への給電が同じように安定してできるのは、この結合係数の差を無効電力で補償しているためです。
また、シミュレーション時間0.15sec以降は負荷の抵抗値が半分になって消費電力(有効電力)が増加しますが、無効電力を電流進みの方向へ増加させて受電電圧の変動を抑制しています。
このシミュレーションからわかる最も重要な無効電力補償の効果は、最初のシミュレーションで示したように受電回路がダイオード整流で結合係数が0.5の場合の最大電力は1456Wでしたが、無効電力補償によって3200Wの負荷でも安定した電力伝送が可能になっていることです。
- 充放電電力制御のPSIMシミュレーション
次に充放電電力制御のPSIMシミュレーション回路とシミュレーション結果を示します。
受電電圧指令値が250V一定で、有効電力指令値が制御開始時は3000Wの充電(力行)で0.15sec後に3000Wの放電(回生)となるシミュレーションです。
結合係数が0.5および0.7の両方の条件で、有効電力・受電電圧とも指令値の通りに良好に制御できています。
結合係数に差があっても(コイル位置がずれても)、負荷への給電が同じように安定してできるのは、この結合係数の差を無効電力で補償しているためです。
また、シミュレーション時間0.15secで、有効電力指令が充電(力行)3000Wから放電(回生)3000Wに移行を開始すると、無効電力を電流遅れの方向へ増加させて受電電圧の変動を抑制しています。
この充放電電力制御でも直流電圧制御の場合と同様に、ダイオード整流で結合係数が0.5のときの最大電力1456Wに対して、無効電力補償によって3000Wの充放電が可能になっています。
- まとめ
以上のように、PSIMを使ってワイヤレス充放電システムのシミュレーションを実施しました。
このシミュレーションで、コイルの位置ずれや結合係数が低いために最大電力が制限されるという課題の解決に、無効電力補償が有効であることを示しました。
またこの方式は、充放電(力行/回生)が可能であり、2次側の制御のみで充放電と無効電力補償を実現していますが、パワーコンディショナなどの系統連系インバータに応用されている基本的なパワエレ技術です。
今回紹介した「ワイヤレス充放電システム」は、電気自動車のワイヤレス充電など、コイル位置が変化するような条件で中大容量のワイヤレス給電を実現できるとともに、双方向に電力伝送するV2H(Vehicle to Home)のワイヤレス化も可能にする重要な技術だと考えています。
もしご興味があれば、基礎理論から制御回路(ソフト)の実装まで解説いたしますので、是非お問い合わせください。
お問い合わせ先:株式会社プリンシパルテクノロジー(https://principal-tech.com/)
※Ver.10.0.6以上の製品版・トライアル版で動作が可能です。
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