パワエレコラム

2015年05月14日(木)

  • PSIM Cafe

ワイヤレス給電の磁界共鳴とは? PSIMで確認してみよう!

 株式会社プリンシパルテクノロジー 大羽 規夫 様からの投稿です。 

ワイヤレス給電では磁界共鳴を使えば電力の伝送距離が延びると言われていますが、この磁界共鳴とはどういう現象なのでしょうか?

PSIMを使ってシミュレーションで確認してみましょう!

ワイヤレス給電の回路モデルはPSIMの磁気素子を使って下の図のように作成することができます。送電コイルと受電コイルの磁気回路モデルは単相トランスと同じです。

ワイヤレス給電の送電コイルと受電コイルはトランスと同じ磁気回路モデルで解析できるのですが、今回はその回路モデルの説明は省略して、シミュレーション結果を見ていきましょう。

1次側の電源電圧をAC100V 100kHzとして、コイルの結合係数kをPSIMのパラメータスイープ機能を使って 0.05から0.6 まで変化させたとき、受電電圧がどのように変化するのかを計算してみます。
なお、結合係数は、送電コイルと受電コイルとの間の距離に応じで変化し、距離が離れるほど結合係数は小さくなり、距離が近づけば結合係数は大きくなります。

最初に受電側のコンデンサCZが無い場合のシミュレーション結果を下図に示します。横軸が結合係数で縦軸が受電電圧であり、結合係数が大きいほど、つまりコイル間距離が近づくほど受電電圧も高くなることがわかります。

次の図は、受電側コンデンサCZを1.1 μFとした場合のシミュレーション結果です。

コンデンサCZが無いときよりも受電電圧は全体的に高くなるとともに、結合係数 k = 0.35付近で電圧が最大となっており、最大電圧が得られるコイル間距離が存在することがわかります。このように、コンデンサを追加することで受電電圧が高くなることと電圧が極大となるコイル間距離が現れるような現象は磁界共鳴によるものだと一般的に言われていますが、このシミュレーション回路上で何を計測すれば磁界共鳴が捉えられるのか、良くわからないというのが正直なところです。
しかし、受電電圧とコイル間距離との関係がこのシミュレーション結果のようになることは実験で簡単に確かめることができます。

ところで、ワイヤレス給電の解説書や論文などで、受電電圧が低下することを効率の低下と言い換えられていることが多いようですが、この回路モデルのエネルギー損失はゼロなので、受電電圧の変化と効率とは完全に異なる特性(指標)であることに注意する必要があります。

では、次に受電電圧の周波数特性を見てみましょう。
PSIMの周波数スイープ機能を使って周波数特性をシミュレーションした結果は下図のようになります。横軸は周波数、縦軸は受電電圧利得 V2/V1 です。

ほとんどの周波数域で結合係数が大きい(コイル間距離が近い)ほど受電電圧は高くなりますが、100kHz付近の一部の周波数域ではコイル間距離と受電電圧との関係が逆転していることがわかります。この周波数域において、先に説明したような受電電圧が極大となるコイル間距離が存在するということであり、1次側の電源周波数が100kHzの場合には結合係数 k = 0.35 のときに受電電圧が極大となります。

このようなシミュレーション結果は、回路方程式を解いて理論的に求めた伝達関数を使って計算しても完全に同じ結果を得ることができます。この伝達関数に関する説明については、別途まとめる予定です。

以上のように、磁界共鳴という定義や理論が曖昧な現象を考えなくても、従来の電磁気学の理論に基づいて回路方程式を解いたり回路シミュレータで解析したりすることで、ワイヤレス給電回路の特性解析や回路パラメータの設計は可能であることがわかります。
このように理解すれば、ワイヤレス給電の設計・開発に関する課題は比較的簡単に解決できるのではないでしょうか。

この記事の回路ファイルのダウンロードはこちらから

作成バージョン:10.0.2  ※Ver.10.0.2以上のデモ版で動作が可能です。

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