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2018年11月12日(月)

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3つのコイルの磁気結合シミュレーション ~ PSIMの磁気素子を使って磁気回路を理解しよう ~

 株式会社プリンシパルテクノロジー 大羽 規夫 様からの投稿です。 

はじめに

コイル間の磁気結合(相互誘導)を応用したワイヤレス給電では、受電コイルが複数ある場合や中継コイルを用いる場合において、3つ以上のコイル間の結合を考える必要があります。
コイルが2つであれば、一般的な教科書で解説されている相互誘導のシンプルな理論式やT型等価回路などで比較的簡単に扱うことができます。ところがコイルが3つ以上になると、どのような理論式や回路モデルで解析すればよいのかわからないという人が多いようです。
そこで、3つのコイルの磁気結合をどのように考えればよいのかについて、PSIMの磁気素子による磁気回路シミュレーションを使って解説します。

 

PSIMの磁気回路モデル

PSIMに付属しているサンプル回路【1-ph transformer in magnetic modeling block.sch】に、PSIMの磁気素子を使って作成した2巻線の磁気結合回路モデルがあります。

図1 PSIMに付属している2巻線の磁気結合サンプル回路 

 

PSIMには、巻線・パス・コア・ギャップという磁気素子があり、これらを使って磁気回路のシミュレーションが可能です。各素子間の接続線は磁束の経路に相当し、2巻線の場合は次の3つの磁束経路があります。

  • 1次漏れ磁束経路
  • 2次漏れ磁束経路
  • 1次-2次を貫通する磁束経路(結合経路)

それぞれの磁束経路には、パスやコアなどの磁気素子を使ってその磁束経路のパーミアンスを設定する必要があります。PSIMでは、このパーミアンスの値を図2のように「Inductance Factor」の欄に設定します。

図2 パスの設定ウィンドウ 

 

このように、PSIMを使って磁気回路のシミュレーションが可能であり、説明に使った2巻線のサンプル回路では、磁気素子で作成した回路の特性と単相トランスを使った回路の特性とが完全に一致していることを確認することができます。

 

なぜコイルが3つになると回路モデル作成や理論解析が難しくなるのか

2巻線の場合、3個のインダクタンスで構成されるT型等価回路で解析できることは周知の通りですが、3巻線になると急に取り扱いが難しくなり、どのように解析すればよいのかを明確に解説している教科書もないようです。なぜコイルが1つ増えただけでそれほど難しくなるのか、その理由は磁束経路を考えればわかります。
2巻線の場合は磁束経路が3つであることは説明した通りですが、3巻線の磁束経路は次のようになります。

  • 1次漏れ磁束経路
  • 2次漏れ磁束経路
  • 3次漏れ磁束経路
  • 1次-2次を貫通する磁束経路
  • 2次-3次を貫通する磁束経路
  • 1次-3次を貫通する磁束経路
  • 1次-2次-3次を貫通する磁束経路

このように、3巻線の場合は7つの磁束経路が考えられ、コイルが1つ増えただけで磁束経路が3つから7つへと2倍以上に増えます。
この磁束経路の増加が3巻線の取り扱いが急に難しくなる最大の理由です。

つまり、3巻線の磁気結合を扱うためには、まず磁束経路(磁気回路モデル)から考える必要があります。2巻線の場合には電気系のT型等価回路で扱っていたために、磁気回路の扱い方がよくわからないということも3巻線の理解を難しくしている理由かもしれません。
磁気系なんて考えたことがないという人は、磁気回路に慣れるために4巻線や5巻線の場合の磁束経路がいくつあるかを考えてみるのも良いかもしれません。

 

コイルが3つの場合の磁気回路モデル

3巻線の場合の7つの磁束経路をPSIMの磁気回路で表すと図3のようになります。
各コイルには磁束経路がそれぞれ4経路ずつあるため、PSIMの巻線素子をコイル毎に4直列に接続し、7つの磁束経路毎にパーミアンスを設定して磁気回路を構成しています。なお、コイル間を結合する磁束経路には、PSIMのギャップを使用していますが、パーミアンスを設定できればよいのでパスやコアを使用してもかまいません。

    【記号の意味】
  • N1 :1次コイルの巻数 [Turn]
  • N2 :2次コイルの巻数 [Turn]
  • N3 :3次コイルの巻数 [Turn]
  • Ap1 :1次漏れ磁束経路のパーミアンス [H]
  • Ap2 :2次漏れ磁束経路のパーミアンス [H]
  • Ap3 :3次漏れ磁束経路のパーミアンス [H]
  • Ag12 :1次-2次を貫通する磁束経路のパーミアンス [H]
  • Ag23 :2次-3次を貫通する磁束経路のパーミアンス [H]
  • Ag31 :1次-3次を貫通する磁束経路のパーミアンス [H]
  • Ag123 :1次-2次-3次を貫通する磁束経路のパーミアンス [H]

 

図3 PSIMによる3巻線の磁気回路モデル 

 

PSIMの相互誘導結合インダクタを用いた回路モデル

ここまで、3巻線の場合の磁気結合を磁気回路モデルで説明してきましたが、PSIMの相互誘導結合インダクタ(Coupled inductor)を使うと、
3つの自己インダクタンスと3つの相互インダクタンスで電気的に扱うことができます。

図4 PSIMの3巻線相互誘導結合インダクタ 

 

この3巻線相互誘導結合インダクタに設定するパラメータは

  • L1 :1次コイルの自己インダクタンス [H]
  • L2 :2次コイルの自己インダクタンス [H]
  • L3 :3次コイルの自己インダクタンス [H]
  • M12 :1次-2次間の相互インダクタンス [H]
  • M23 :2次-3次間の相互インダクタンス [H]
  • M31 :1次-3次間の相互インダクタンス [H]

となっており、各コイルの電圧と電流の関係は次式のようになります。

この電気系のインダクタンスは、磁気系のパーミアンスと巻数から次式によって求められます。

このようにして、磁気結合を電気系の自己インダクタンスと相互インダクタンスに置き換えて解析できるわけですが、
そのためには解析対象の磁気回路モデル(磁束経路とパーミアンス)を明確にしておく必要があります。

コイルが3つの場合はΔY型等価回路

すでに述べたように、単相トランスのような2巻線の磁気結合はT型等価回路を使って解析されることが多いです。このT型をπ型の等価回路へ変換することも可能ですが、
いずれにしても3つのインダクタンスでその回路特性を規定することができます。
では、3巻線の場合はどうなるかというと、6つのインダクタンスで構成されるΔY型等価回路で解析することができます。(※参考文献参照)
PSIMでこのΔY等価回路を作成すると図5のようになります。

図5 PSIMによるΔY型等価回路 

 

6つのインダクタンスは、自己インダクタンスと相互インダクタンスに基づいて次式のように表されます。

このように3巻線の場合でも2巻線と同様に磁気結合を電気的な等価回路に置き換えて解析することが可能ですが、このような複雑な変換式で扱わなければならない等価回路よりも、
パーミアンスを使った磁気回路で解析した方がわかりやすい場合も多いと思います。

シミュレーション結果の比較

コイルが3つの場合の磁気結合を解析するための回路モデルとして、次の3種類を説明しました。

  • 磁気素子を用いた磁気回路
  • 相互誘導結合インダクタを用いた回路
  • ΔY型等価回路

次に、この3種類の回路を同時にシミュレーションするPSIM回路について説明します。

図6 3種類の磁気結合回路モデルのシミュレーション回路 

 

図6がシミュレーション回路ですが、1次巻線に接続される電源は直流成分を含む500Hzの矩形波電圧源であり、3種類の回路モデルに共通して接続されています。
2次巻線と3次巻線には負荷として抵抗が接続されており、その抵抗値も3種類の回路モデルで同じです。

シミュレーション結果を図7に示します。

図7 3種類の磁気結合回路モデルのシミュレーション結果 

 

上段が3つの巻線の両端電圧、中段が2次巻線と3次巻線の電流、下段が1次巻線の電流です。
各巻線の電圧と電流は、いずれの回路モデルにおいても波形に差異はなく完全に一致しており、3種類の回路モデルが同じ特性の等価回路であることがわかります。

 

まとめ

3つのコイルの磁気結合を解析するための3種類の回路モデルについて、PSIMを使って解説しました。
どの回路モデルでも理論解析やシミュレーションは可能ですが、やはり磁気結合を扱うのであれば磁気回路モデルで考えるのが基本です。
ぜひ、磁気回路の解析や設計検討にPSIMの磁気回路シミュレーションを使ってみてください。

シミュレーション回路ファイルは下記よりダウンロードできます。

作成バージョン:11.1.3 ※Ver.11.1.3以上の製品版もしくはトライアル版で動作が可能です。  デモ版は素子数制限を超えていますので、実行できません。 トライアル版のダウンロードはこちらからお申し込みください。

 

この記事に対するご質問はこちらまでご遠慮なくお問い合わせください。
株式会社プリンシパルテクノロジー お問い合わせ http://principal-tech.com/info/

※参考文献
小林涼太,太田裕介,金子裕良:「中継コイルを用いた非接触給電システムの回路特性解析」,電気学会産業応用部門大会講演論文集,1-35,(2015年)

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