Typhoon HIL604ユーザー事例(パワコン)
国立研究開発法人産業技術総合研究所
橋本 潤様
- Typhoon HIL
- インタビュー
再生可能エネルギー研究センター エネルギーネットワークチーム
橋本 潤様
-産業技術総合研究所とは、どのような研究機関でしょうか。
日本で最も大きな研究機関の一つで、日本の産業や社会に役立つ技術の創出とその実用化や、革新的な技術シーズを事業化に繋げるための「橋渡し」機能に注力しています。 今年から第五期中期計画※が始まり、持続可能な社会の実現に向けたイノベーションテクノロジーの創出、技術創出を実現すべく取り組んでいるところです。
※詳細は産総研中期目標に記載しています。
-エネルギーネットワークチームは、どのようなお仕事をされているのでしょうか。
再生可能エネルギー(再エネ)の導入制約を解決する研究開発です。具体的には、再エネのような変動電源に対し単に出力抑制をかけるのではなく、 スマートに制御して、系統をサポートさせるような次世代パワーコンディショナ(スマートインバータ)の研究や、将来必要と注目される慣性力に対応した新たなパワーコンディショナ(パワコン)の研究などです。多くの再エネは、電力変換機器であるパワコンを用いて系統に接続されます。このエッジ機器であるパワコンを高度化、高機能化することで再エネ導入制約を解決することに取り組んでいます。
”Typhoon HILを活用して国内メーカーと協力して再エネビジネスとパワコン市場を盛り上げていきたい”
-Typhoon HILを知ったきっかけは何でしょうか。
AIT(オーストリアの研究機関)でTyphoon HILのデモを見たのがきっかけです。 産総研FREAは、2014年からスマートグリッド国際研究施設ネットワーク(※SIRFN)に参画して、AITのような海外研究機関と密に連携しています。この枠組みでは、スマートグリッドに係わる基盤技術や情報を共有しています。
このSIRFNの活動の中でHIL技術の将来性と研究開発の重要性を訴えていたのがAITでした。 今から6年前にAITでTyphoon HILによるパワコンのプレ認証試験デモを見学したのをきっかけに我々も注目し、ようやく導入に至ったところです。 今では、SIRFNに参画する研究機関は、ほぼ何らかのHIL設備を有しており、現在ではSIRFNのタスクのひとつとして、HIL技術と国際標準化に向けた議論を行っています。
※SIRFNとは、IEAの活動の一つである国際スマートグリッド行動ネットワーク(ISGAN)の一部です。ISGANは24か国の政府代表が加盟する、スマートでクリーンな電力系統の普及促進のための国際的なネットワークです。
-産総研FREA様におけるTyphoon HILの活用方法を教えてください。
Typhoon HILは、新しい研究開発をするためのプラットフォームとして魅力的です。 ソフトウェアが新しい設計思想に基づいて開発されているため、効率的かつ高性能です。将来的に他のHIL製品との連携による拡張性にも期待しています。
また、Typhoon HILは他のHIL製品に比べてパワーコンディショナの開発をサポートする設計思想があるように思えます。 実際に多くの海外パワコンメーカが導入しており、国内メーカと一緒にこのような素晴らしいプラットフォームを活用した研究を行っていきたい、 その先に日本のパワコンメーカの躍進、さらには再エネビジネスの拡大につながればと期待しています。
Typhoon HILは、IEC 61850に準拠した通信プロトコルなども実装されています。今後、エネルギーネットワークチームではパワコンだけでなく、サイバーセキュリティ技術(通信暗号化)の研究や 通信制御を含むマイクログリッド研究開発にもTyphoon HILを含むこれからのHIL技術を活用していきたいと考えています。
”制限のあるミニモデルからHILに置き換えたほうが効率的ではないか”
-制御仕様の評価でも今まではミニモデル(実機)で評価を行っていたようですが、
HILとミニモデル(実機)の違いは何でしょうか。
実機の試験を完全になくせるわけではありませんので最終的に認証試験等に向けて、ミニモデルとHILがどちらが効率的で近道になるかが重要だと思います。ミニモデルによる認証が認められるのであれば、もちろんミニモデルの価値が増します。
最終的にフルサイズでの試験が求められるとしても、例えば、部分的にでもTyphoon HILなどの試験結果が認証試験として十分であることが示せればフルサイズで求められる試験を極力減らし、試験時間を短縮し、結果的に開発コストを下げることにつながることが期待されます。 そのためには、どの試験項目がHILでの試験で十分で、どの試験項目が引き続きフルサイズで試験が必要かを明らかにしなければなりません。
また、FREAの試験設備では、系統模擬電源を利用して異なる周波数や電圧を再現して系統に連系した際の挙動を試験することが可能です。ただ、特に大型のパワーコンディショナの場合、使い方によっては対象となるパワーコンディショナや試験設備を破損する恐れがあります。HIL技術を用いれば、破損のリスクを大きく低減できますし、極端なパラメータを設定した試験などを実施することも可能になります。例えば、デバッグなどの際に異常値を設定したケースの検討なども可能になります。
“HILを使った試験というのは何も壊さない。その中でもTyphoon HILは
パワコンメーカーにとって取っ掛かりやすいツールなのでは”
-橋本様にとってTyphoon HILのメリットは何でしょうか。
故障を気にせず開発や試験をできるのが一番のメリットです。また、Typhoon HILの良いところは、比較的新しく開発されたソフトウェアのため他の製品に比べてソフトウェアインタフェース(GUI)がわかりやすく便利な印象を受けます。パワコン開発を想定した設計思想のため、パワコンメーカに導入しやすいツールだと思います。
-Typhoon HILを使って今後どのような試験を行っていきますか。
現在、パワーコンディショナに新たな機能を実装し、その評価をする国プロに活用しています。 具体的には、再生可能エネルギーの導入量が増えると相対的に既存の同期発電機の割合が少なくなり 従来同期発電機が担っていた慣性力による応答が小さくなり、最悪の場合停電するような可能性が指摘されています。 このプロジェクトでは、今後さらに増加するパワーコンディショナを介して系統に連系される分散電源に、疑似的に慣性力等と同等の機能を実装するための技術開発および、評価指標、評価方法の策定に取り組む予定であり、それらの検討にTyphoon HILを活用していく予定です。
橋本様、ありがとうございました!
インタビュアー 杉山 勇